世帯分離のメリット・デメリットは?住民税への影響について

世帯分離を行うことは、どんな時でもメリットがあるというわけではありません。

場合によっては、損をしてしまうこともありますから、メリットとデメリットをよく考慮してから手続きを行うようにしましょう。

世帯分離の意味は?

世帯分離とは、住民票で一つの世帯として登録されているものを別々の世帯に分けることを言います。

同居していても、親子でも、世帯を分けることができます。

なぜ世帯を分けるのかという点ですが、世帯を分けることで介護費用が安くなったり、国保の保険料が安くなる場合があります。

また家計をはっきり区別しておきたいという理由や、子に自立してもらいたいという目的で行うご家庭もあります。

しかし、特に目的なく世帯を分けることは意味がないばかりか、以後は住民票の取得に手間と費用がかかって不便になったり、国保の保険料が高くなるなど損することもあります。

世帯分離のメリット・デメリットについて

世帯分離する際は、まずはメリットとデメリットをよく理解して、「ウチの場合はどうなるのだろう」ということを慎重に検討したり、相談した上で行いましょう。

失敗した場合は、後から元に戻すことも出来なくはありませんが、面倒な上にすんなりといかないこともあるかもしれません。

なので、一番良いのは、手続きを行う前に十分に検討しておくことです。

世帯分離で介護費用が節約できるなどのメリット

世帯分離を行うメリットは、介護費用や国民健康保険料を大きく節約できる可能性があるということです。

例えば、介護施設に入居中の親御さんがおられる場合には、世帯を分けるだけで月10万円以上も費用が浮くことも少なくありません。

しかし、介護サービスの利用状況や他の要因によっては、世帯分離が節約にならないどころか、かえって高くついてしまうこともあります。

後述しますが、現在同世帯で要介護者が2人以上いる場合に、高額介護サービスの合算ができないなどのデメリットがあるためです。

また国民健康保険についても同じで、かえって保険料が上がってしまうこともあります。

世帯を分ける前と、分けた後でどれくらい家計全体にかかわる費用が変わってくるのか、具体的に計算してから判断しましょう。

かえって負担増となるデメリットも

世帯分離でデメリットとなり得る事柄について挙げていきます。

国民健康保険料が増額となる場合がある

国民健康保険料については、世帯分離によって減額される場合と増額される場合とがあります。

保険料は収入に応じて算定されますが、低所得者の減額制度が適用された場合に、2~7割の保険料の減額があります。

しかし、国民健康保険料には「平等割」という世帯ごとにかかる課税部分があり、世帯を分けると平等割が二重にかかることになります。

ですから、全体としてみると前より保険料が増えるということがありうるのです。

世帯分離で保険料が増えるのか減るのかは自治体の扱いによって変わりますし、個々の所得状況によっても違うため、自分で計算するのは困難です。

正確に知るには市町村役場の担当窓口で計算してもらうとよいでしょう。

尚、これは分離した世帯の両方が国保に加入している場合のことで、たとえば世帯分離する人が社会保険の扶養に入っていたというような場合には、そのまま扶養に入っている限りは影響はないでしょう。

高額介護サービスの合算ができない

同じ世帯で介護サービスを利用している人が2人以上いる場合には、その自己負担分を合算して高額介護サービス費の自己負担限度額に基づく払い戻しの申請が行えます。

しかし、世帯を分けることで合算ができなくなり、かえって支払いが高くなる場合があります。

扶養控除ができなくなる可能性がある

これまで所得税の確定申告で扶養控除の計算に入れていた人が、世帯分離することで扶養を認められなくなる可能性があります。

扶養控除に加えて、障害者控除なども行っていた場合には、かなり大きな控除額になっていた可能性がありますから、その分だけ所得税を多く支払わねばなりません。

ただし、世帯分離することで扶養から外れるかどうかについては意見の分かれるところがあり、税法上は世帯と扶養とは別に考えます。しかし、税務署に尋ねた場合には、扶養から外すべきと回答されることがあります。

判断がつきにくいので悩みますが、一つの方法としては扶養控除を行った上で申告しておき、税務署から何か問い合わせがあれば、その時に対応するということでよいかもしれません。ただしその場合には遡って税金を徴収される可能性もあり得ます。

市営住宅など公営住宅に申し込めない

公営住宅は世帯の収入によって家賃が設定されますから、原則として同じところに2世帯が住むことはできません。

また、入居申し込みの際の資格として、「不自然に世帯分離をおこなっていない」という点があり、この「不自然に」というのは、結婚・転勤・就職・独立等の理由がなく世帯を分けたことを言います。

もし、公営住宅の入居資格を得ようとして世帯の収入を減らす目的で世帯分離をしたとみなされると、入居時の審査で落とされる可能性があります。

その他の世帯ごとにかかる費用が増える

町内会費が世帯ごとにかかってきたり、自動車保険や携帯電話の家族割サービスが使えなくなることがあるかもしれません。そのような場合のコストアップも検討しておく必要があります。

夫婦で世帯分離することのメリットはある?

まず夫婦間で世帯を分けることは、不可能ではありませんが、難しいということがあります。

夫婦間での世帯分離の条件についてはこちらもご覧ください→ 世帯分離のやり方は?窓口で理由を聞かれた時の答え方

ですから、その大変さを上回るメリットがあるかどうかがカギとなりますが、確かにメリットが大きい状況は存在します。

例えば、夫婦のどちらかが介護施設に入居しているような場合です。

介護施設の住居費や食費は世帯の収入に応じて段階的に定められており、また高額の介護サービス費用についても、世帯の収入に応じて軽減措置があります。

夫婦それぞれで家計を別にできることが条件ですが、それが可能なら世帯を分けることで、介護施設にかかる費用を大幅に低減できる可能性があります。

また経済的なメリットだけでなく、夫婦それぞれで働いている場合に家計をきちんと区別しておきたいとか、別居する予定があるなどの事情で世帯を別にするケースがあります。

ニートが世帯分離するデメリットは?国民健康保険料はどうなる?

ニートの方の場合は、世帯分離をすることで、国民年金の全額免除申請ができたり、国民健康保険料が7割軽減できる可能性があります。

これは、国民年金や国民健康保険の額が世帯全体の所得で計算されていることによります。

現在は世帯全体の収入が多くて全額免除や軽減が申請できないとしても、ニートの方だけの世帯にすれば対象となれるわけです。 

でも、ニートが世帯を分けることでデメリットはないのでしょうか?

状況によっては、デメリットが生じます。

例えば、国民健康保険料の計算では、世帯員の収入以外にも、世帯ごとに計算する平等割という税がかかりますから、一家全体で考えると保険料は上がる可能性があります。

また国民年金は収入のある世帯員と同居していると半額免除にはでき、全額免除した場合との差は約8,000円です。

ですから、国民健康保険の上がる分と、保険料の7割軽減分、国民年金の8,000円軽減分を比較して、安くなるかどうかです。

具体的に試算をしてみる必要があり、市町村役場の保険窓口で尋ねてみるとよいでしょう。

また現在、親の社会保険の扶養に入っている場合などは、保険料を払わずに済んでいますので、わざわざ国保に加入する必要はないかもしれません。

これなら、世帯分離することで国民年金の全額免除の分だけまるまる負担が減ってメリットがありそうです。

世帯分離で後期高齢者医療保険料の影響は?

多くの場合は、世帯分離をすることで後期高齢者医療保険料は安くなります。

これは、後期高齢者医療保険料の算定に低所得者軽減という仕組みがあるためで、この低所得者軽減の判定は世帯の収入に応じて決められています。

ですから、後期高齢者と同居している他の家族に収入があるなら、世帯を分けた方が低所得者軽減を受けられる可能性があり、保険料も安くなるというわけです。

しかし、後期高齢者自身の収入が多い場合には、低所得者軽減が適用されませんから、世帯を分離しても保険料は安くも高くもなりません。

高額療養費も世帯分離でお得に

高額療養費制度とは、毎月の医療費で自己負担分が多い時に、差額が払い戻される国の制度です。

この際の自己負担の限度額は、世帯全体の所得に応じて定められていますから、世帯分離で所得を減らせば、入院などで高額な医療費の支払いがあった時に、多くの払い戻しを受けられます。

後期高齢者の世帯分離でデメリットは?

後期高齢者のいる世帯で世帯分離をした場合、国民健康保険の保険料が上がるということもありませんし、あまりデメリットはないと思われます。

ただし、要介護者が世帯内に2人以上いて、その2人を別世帯に分けると、高額介護サービスの自己負担限度で世帯合算が使えなくなり、費用がアップすることがあります。

また、細かなことですが、一家の住民票が必要な時に、取得費が余計にかかったり、別世帯になった分には委任状が必要になるといったことがあります。

世帯分離で介護保険についてのメリットとデメリット

世帯分離をすることによって介護サービスの自己負担額を減らすことができる場合がありますが、これは世帯の収入に応じて自己負担の限度額が設定されているためです。

これを高額介護サービス費の利用者負担上限額と言います。

高額介護サービス費の利用者負担段階がポイント

「高額介護サービス費」の利用者負担上限額は以下のように設定されています。(平成29年8月改正による)

段階区分 対象者 負担上限額
第一段階

・生活保護受給者
・老齢福祉年金受給者で、世帯全員が市区町民税非課税の方

15,000円(個人)
第二段階

・世帯全員が市区町民税非課税の方
・前年の所得と公的年金の合計が年間80万円以下の方

15,000円(個人)

24,600円(世帯)

第三段階 ・世帯全員市区町民税非課税で、第2段階に該当しない方 24,600円(世帯)
第四段階 ・世帯の誰かが市区町民税を課税されている方 44,400円(世帯)
第五段階 ・世帯の誰かが現役並み所得者に相当する場合 44,400円(世帯)

例えば、要介護3の人が介護サービスを最大利用限度まで利用すると、通常の自己負担額(1割)は26,931円となります。

しかし、表の通り、利用者負担段階が第1段階や第2段階の人の場合には、自己負担限度額は15,000円ですから、申請を行うことによって、差額の11,931円が払い戻しされるのです。

また、自己負担限度額が24,600円の第3段階の人でも、差額が2,331円ありますから、申請することで払い戻されます。

つまり、利用者負担段階のどれに該当するかによって、全く同じ介護サービスを受けても支払う費用は大きく変わってくるのです。

その差は、単純に第1段階と第5段階の自己負担限度額の差ですから、最大で月額29,400円となります。

毎月3万円近く節約できれば、年間で35万円以上の差となりますから、これは大きい金額ですね。

世帯分離して利用者負担段階を変える

高額介護サービス費の利用者負担段階は、世帯ごとの所得によって決まります。

そして同一世帯内の誰かに住民税の課税される程度の収入があれば、第1~第3段階の対象とはなりません。なぜならそれらの段階の対象条件として「世帯全員が住民税非課税」という点があるためです。

そこで家族の収入状況によっては、世帯分離を行うことで「世帯全員が住民税非課税」という条件を満たすことができ、介護費用の節約につながるというわけです。

例えば、息子家族と同居している母親の収入が国民年金の年額78万円だけだとします。

この場合に息子や嫁が働いていており住民税が課税されているなら、母親が介護サービスを受けた場合には利用者負担段階の第4段階となり、最大で44,400円の自己負担をしなくてはなりません。

しかし、母親との世帯分離をすることで、利用者負担段階の第2段階になりますから、自己負担額は最大で15,000円でよくなるというわけです。

さらに世帯分離の効果はこれだけでなく、状況によっては年間数百万円の節約になることもあります。その理由についても説明していきます。

介護施設利用の費用や介護保険料も差がつく

ショートステイを含む施設系の介護サービスを利用すると、介護保険の自己負担額以外にも食費や部屋代(居住費・滞在費)を請求されます。

そのような費用についても限度額が利用者負担段階に応じて決められていますから、世帯分離の効果はこの部分にも及びます。

また介護保険料も本人と家族の収入を合計して決定されますから、世帯を分離して生計を別とすることで、市町村によっては倍以上の開きがつくこともあります。

さらに前述の通り、後期高齢者医療保険料も低所得者の減額制度が適用されることで、2割~7割安くなる場合があります。

世帯分離で住民税はどうなるの?

世帯分離をすると、住民税もそれぞれの世帯で払わないといけなくなり、高くつくのではないか?という疑問があるかもしれません。

しかし、そもそも住民税は個人個人に課せられるものですから、世帯分離をしても変わることはありません。

ですから、住民税に関しては世帯分離してもデメリットが生じるわけではありません。

サラリーマンの場合は、住民税が給料から天引きされることも多いため、どのような仕組みになっているのか分かりにくい面もあるかもしれません。

住民税は、個人の前年の所得を元に、お住いの都道府県や市町村で税率により計算されます。

無職の人や所得の少ない人(年収100万円以下)の人には、住民税は非課税となります。

世帯の全員が住民税非課税だと「住民税非課税世帯」と呼ばれ、介護サービスの利用や保険料の支払いなどで費用の軽減措置があります。

ですから、住民税非課税の同居老親がいる場合に、世帯分離をして「住民税非課税世帯」にしておき、介護費用等を節約するということが行われます。

勘違いしやすいところですが、世帯分離すれば住民税が非課税になるのではなく、住民税非課税の人が世帯分離をすることでメリットが生じることがあるというわけです。

注意が必要なのは、世帯分離と扶養の関係です。

前述のように世帯分離のデメリットとして、所得税の扶養控除が利用できなくなるかもしれないという点ありますが、住民税の計算にも扶養控除があり、同じことが当てはまります。
つまり、世帯分離で扶養から外すのであれば、住民税が高くなる可能性があります。

しかし、世帯分離と税金の扶養控除とは別の問題であり、世帯は別でも扶養に入れることは可能です。

世帯分離・世帯主分離の手続きの仕方について

世帯主を分離して別の世帯にする世帯分離の手続きは、お住いの市町村役場で行います。

世帯変更届(住民異動届)という書類を書いて窓口に提出する必要がありますが、20~30分で済むような簡単な手続きです。費用もかかりません。

必要なものとして、運転免許証などの本人確認の書類と印鑑、国民健康保険証などが必要となります。

手続きについての詳しくはこちらをご覧ください → 世帯分離のやり方は?窓口で理由を聞かれた時の答え方