何かと複雑な遺産相続に関する法律ですが、よく生じる質問について答えをまとめてみました。
目次
相続人に関するよくある質問
相続人に未成年者がいる場合は?
未成年者は単独では法律行為をすることは出来ません。
つまり、遺産分割協議に加わることができません。
そこで、家庭裁判所に請求し特別代理人を選任する必要があります。
もちろん2人の未成年子がいる場合は、そのそれぞれについて特別代理人を選任しなければなりません。
尚、特別代理人は成人していれば誰でもなれるというわけではありません。
例えば、未成年者と共に相続人である別の人が特別代理人となった場合は、その人に有利なように遺産分割を進めてしまう可能性があり、そうなると未成年者の権利は侵害されてしまいます。
そこで、未成年者と共に相続人になっている人は親であっても特別代理人とはなれないのです。多くは相続ではない叔父や叔母、祖父母などが特別代理人になることが多いようです。
認知症や行方不明の相続人がいる場合の注意点は?
認知症の方など判断力の十分でない人については、家庭裁判所で後見開始の審判を申立て成年後見人を選任してもらい、その成年後見人が認知症の相続人の代わりに遺産分割協議に参加します。
申立てから選任がなされるまでには、数ヶ月の期間がかかることがありますので、早めに申立てを行なっておく必要があります。
また相続人の一人が行方不明の場合には、そのままでは遺産分割協議を行なうことができませんので大変に困ることになります。
このような場合には、行方不明の相続人が7年以上生死が不明なのか、そうではないのかによって対策が変わってきます。
7年以上生死が不明な場合は、利害関係者からの請求によって家庭裁判所で「失踪宣告」を行ってもらう必要があります。
失踪宣告がなされますと、その人は生死不明になってから7年間の期間の満了したときに死亡したものとみなされます。
ですから、相続においても相続人の中に死亡した人がいる場合と同じような扱いで進めることになります。
一方で、失踪宣告は生死不明の状態が7年間に達していない場合やどこかで生存しているという情報がある場合などは行なえません。
そのような時は利害関係人により家庭裁判所で「不在者の財産管理人」を選任してもらう方法があります。
不在者の財産管理人は、選任された後に家庭裁判所の許可を得れば遺産分割協議に加わり、それを成立させることができるようになります。
介護や看病したことは考慮される?
被相続人の生前に介護や看病をしたことは、ただちに遺産分割で優遇される根拠になるわけではあません。
しかし、それが遺産の維持・増加に貢献したと認められる場合に、「寄与分」というものを主張できることがあります。
「寄与分」が認められれば、本来の法定相続分により取得できる額を超えて遺産の分配を受けることができます。
ただし、単に親族間の扶養義務など当然される義務を果たしただけでは「寄与分」は認められず、「特別の寄与」が必要とされています。
「特別の寄与」とは、例えば無給に近い状態で事業を手伝ってきたり、付添い人を雇う代わりに自分が付き添って出費を免れることができたなど、被相続人の財産の維持又は増加に貢献したといえる状況が該当します。
ですから、精神面での支えになって被相続人自身がどんなに感謝していたとしても、財産に関する影響が何ら生じていなかったならば「寄与分」は主張できません。
寄与分が発生する場合の遺産分割の進め方ですが、まず寄与分の具体的な額について、原則として共同相続人全員が話し合いで決定します。
それでも話がまとまらない場合は家庭裁判所に寄与分を定める調停や審判を申し立てて決められることになります。
寄与分の計算は寄与の時期、方法、程度、相続財産の額、特別の寄与により維持・増加した財産の額などを基準として算定されます。
寄与分がはっきりしたならば、相続開始時の遺産の価額からまず寄与分を持つ人の寄与分を控除し、その残りを相続財産とみなして遺産分割を行ないます。
生前贈与や遺贈を受けた人の相続分はどうなる?
相続人の中に被相続人から生前贈与や遺贈を受けた人がいるなら、公平性の観点からそれら遺贈分や生前贈与分を相続分の前渡しをされたものと考えて、その人の相続分を減らすこととされています。
このような生前贈与などを受けた人のことを「特別受益者」といいます。
ただし、被相続人が生前贈与や遺贈をする際に相続とは関係ないとの意思表示をしていた場合には、被相続人の意思が尊重され、他の相続人の遺留分を侵害していない限りは特別受益者の相続分は減らされません。
生前贈与で特別受益とみなされるのは婚姻や養子縁組のため、生計の資本のために贈与を受けたような場合で、単に小遣いや扶養料をもらうという程度では該当しません。
具体的には婚姻時の持参金や嫁入り道具、土地をもらったり、自宅の新築費用を援助してもらったこと、事業資金を援助してもらったことなどが含まれます。
では、生命保険金はどうでしょうか?
生命保険金の受取人として相続人の一人が指定されていた場合、生命保険金は被相続人の遺産ではなく、受取人の固有の財産であると考えられます。
以前には確かに被相続人が保険料を支払い、その死亡によって受取人に保険金が支払われることから、贈与ないし遺贈に準じて特別受益に該当するという学説があったようです。
平成16年10月29日の最高裁判所の判決では、生命保険金は原則的には特別受益にならないとされました。
ただし、同じ判決によれば他の共同相続人との間に生じる不公平が著しい場合には、生命保険金を特別受益に準じるものとして取り扱う場合もあるとされました。
ですから、生命保険金が遺産全体に占める割合や同居の有無、被相続人に対する介護などの貢献度合いなどを総合的に考慮し、他の相続人との著しい不公平が生じるようであれば、生命保険金も特別受益に準じたものとされる可能性があります。
遺産分割についてのよくある質問
法定相続分には強制力があるの?
法律では相続人の立場に応じて相続割合というものが定められています。
しかし、遺産分割の話し合いは必ずしもこの法定相続割合にしばられるわけではありません。
民法第906条では「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定められており、相続人同士の話し合いで誰が何をどれだけ相続するかを自由に決定できることになっています。
ですから一人の>相続人がすべての相続財産を相続するような話し合いも有効です。
しかし、何の目安もないところで話し合いを行なってもいつまでも決着がつかないことがありますから、法定相続分は各人の相続分を考える目安としては役立ちます。
また、話し合いだけでは解決がつかず調停や裁判にまで持ち込まれていくと法定相続分をもとに審理がなされることになり、その時は重要な意味を帯びてくることになります。
分割するまでの遺産はどのように管理するの?
分割されるまでの遺産は相続人が共同で管理することも、だれか管理人を選任することもできます。
管理に要した費用は遺産に関する費用として、遺産から支出されることになり、遺産の中に現金等がなければ各相続人が相続分に応じて負担することになります。
遺産の管理行為は各相続人の相続分に従いその過半数で決めることになりますが、保存行為は相続人が単独で行なうことができます。
固定資産税の支払いや火災保険料の支払、建物の修繕などは保存行為と考えられますので、各相続人が単独で行なえます。
だれか管理人を選任する場合は、相続人の中の1人を選ぶか、家庭裁判所で第三者を管理人として選任してもらう方法があります。
また遺産から収益が発生する場合ですが、例えば家賃や株の配当、預金利息などの収益がある場合は、これらは厳密には遺産ではありませんが、遺産と一括して分割の対象とすることが適切です。
これらの遺産からの収益は法定果実とよばれますが、遺産分割がなされるまでは共同相続人がこれらを共有していると考えることができます。
たとえ分割によって誰か特定の相続人が収益の元となる遺産を取得した場合も、その分割時までの遺産から生じた収益は共同相続人が相続分に応じた権利があると考えることができます。
一度に全ての遺産を分割しなければならないの?
遺産分割については、遺産のうちの分けやすいものから分割するという段階的な分割方法が認められています。
例えば、遺産の不動産については他からの訴訟が起こされており、それが確定するまでに時間のかかりそうな場合に、遺産の預貯金については先に分割しておくということが可能です。
しかし、安易に許されるわけではなく、遺産の調査に時間を要する場合、遺産の一部について訴訟がもちあがっており確定まで長期にわたる場合、遺産の一部の分割が禁止されている場合など合理的な理由が必要とされています。
一見、分割の難しそうな遺産でも、分割方法を工夫することでスムーズに進むこともあります。
一般的な分割には遺産をあるがままの状態で分割する「現物分割」という方法がありますが、不動産などの遺産の中にはそのままで分割するのが大変困難なものもあります。
そのような場合は、「代償分割」といって、1人の相続人あるいは数人の相続人が相続分を超える現物を相続し、代わりに相続分に満たない相続人に対して代償金を支払うという方法を選択することができます。
あるいは、「換価分割」といって遺産を売却して金銭に換価し、それを分割するという方法も選択できます。
相続した遺産に欠陥があった場合は?
その遺産の欠陥が遺産全体に占める割合が極めて大きい場合は、遺産分割の無効ややり直しを主張できることになります。
しかし、欠陥がそれほど大きいものでない場合は、各共同相続人が担保責任を負うことになり、欠陥のある遺産を取得した相続人は他の相続人に対し損害賠償や代金減額の請求ができることになります。
なお、遺産分割による担保責任の存続期間は1年ですので、遺産の欠陥を知った時から1年以内に損害賠償等の請求を起こす必要があります。
このように遺産に欠陥があったり、遺産が実際には他人のものだった場合などは、それかせ遺産全体のうちで大きな割合を占めるものであれば、遺産分割協議のやり直しができると考えられています。
さらには、相続人全員の合意がある場合にはやり直すことが可能です。
ただし、一度取得したものを再分配するわけですから、贈与税の問題が発生する場合があります。
分割前の遺産を勝手に処分されたら?
遺産分割なされるまでの遺産は共同相続人の共有となります。
ですから、1人の相続人が勝手に処分することは許されません。
もし相続人の1人が遺産分割前に遺産の不動産を他人に譲渡したなら、たとえ譲渡を受けた第三者が登記を信頼して移転登記を受けた場合でも、他の相続人は登記の抹消を請求することができます。
一方で動産の場合には、動産を譲り受けたものが所有権を善意無過失に信じて譲渡を受けていれば所有権を取得します。
他の相続人は取り戻すことはできません。
預金については、銀行が死亡の事実を知らずに1人相続人に相続分以上の預金を払い戻した場合、その払い戻しは有効とされる場合があります。
他の相続人は相続分以上の払い戻しを受けた相続人に対して相続分に相当する額の返還を請求することになります。