高齢者の筋力低下(サルコペニア)の原因やメカニズムと予防方法

この記事では高齢者の筋力低下(サルコペニア)の原因や予防に役立つ事柄をまとめました。

高齢者は若い人と比較しても筋肉が生成されにくいため、何もしなければ筋力低下がどんどん進んでしまう特徴があります。

筋力の低下は歩行など日常生活を送るうえで基本となる事柄に支障が生じますし、高齢者を介護する家族の方にとってもお世話がより大変になるという影響があります。

筋肉が減少し、筋力が低下していく原因とメカニズムを知って、しっかりと予防に努めましょう。

高齢になるほど筋肉が萎縮するメカニズム

高齢になってからの筋力低下の一番の原因は加齢による筋肉の萎縮です。また筋肉を構成する筋繊維の数も大きく減少していきます。

このような筋肉の萎縮と筋繊維の減少という2つの理由により、筋肉量が若い頃よりもずっと少なくなるのが高齢期の特徴です。

目安としては、20歳の頃の筋肉量と比較して70歳頃には男女問わず筋肉量が30%も減少するといわれています。

こうして加齢によって筋肉量が低下して、筋力低下をはじめ様々の身体症状が現れる状態は一つの症候群として「サルコペニア」とも呼ばれています。

「サルコ(sarco)」とはギリシャ語で筋肉のことであり、「ぺニア(penia)」は同じく「減少」を意味しますから、サルコペニアとは要するに「筋力低下」のことであり、最近よく用いられる言葉です。

60歳以上では約5人に1人が、サルコペニアを有病しており、その有病率は年齢が上がるにつれて上昇していきます。

しかし筋力低下からサルコペニアと診断される場合は、単に加齢だけが原因というわけではなく、生活習慣・生活環境も大きな関わりがあります。というのも、サルコペニアについては40代、50代の比較的若い人にも見られるためです。

逆に考えれば、高齢であっても生活習慣や食事面で注意すれば、場合によってはかなりの程度サルコペニアを予防できたり、改善できたりする見込みがあるということになります。

もちろんサルコペニアの原因としては、慢性疾患によるものやもともとの体質なども関わっており、多くはそれらが複合的に影響を与えているようです。

それでも、どのような場合であっても、生活習慣を見直すことで以前より良くなることはあっても、悪くなることはありません。

では具体的にはどのような生活習慣が高齢者の筋力低下やサルコペニアの原因となるのでしょうか?

大きく分けると、運動量の減少と栄養摂取の不良の2つになります。

運動量の減少

筋肉は使えば使うほど強くなり、使わないと衰えていくというのは有名な話です。

筋肉を構成する筋繊維は、よく動かすことによって一本一本が太くなり、十分に収縮するようになります。しかし、動かさない時が増えると、筋繊維は細くなっていき、収縮も不十分になっていきます。

そうして、筋肉量が減少して体を支えられなくなり運動機能が極端に衰えるのがサルコペニアです。ただでさえ筋繊維の数が減っていく高齢者の場合は、運動を習慣的に行っているかどうかが大きな分かれ道になるわけです。

栄養摂取の不良

筋肉を生成するには元となる材料、つまりタンパク質やたんぱく質が分解された状態のアミノ酸が必要です。ところが高齢になると咀嚼力の低下や食事量の減少もあり、たんぱく質を十分に摂取しなくなる傾向があります。

また加齢によって消化吸収能力も弱ってきますから、若い頃ほど食物からしっかりと栄養を吸収できません。その結果、筋肉が生成される量も減少していきます。それで高齢者なるほど、たんぱく質やアミノ酸の摂取にはひと工夫が必要となります。

サルコペニアで生じる困った症状

サルコペニアによって起きるつらい症状や日常生活の支障としては以下のような点があります。

  • 転倒しやすくなる
  • 転倒により骨折し、そのまま寝たきりなるリスクが高まる
  • 嚥下筋の衰えから嚥下障害や誤嚥につながる
  • 活動量の減少が肥満につながる
  • 肥満から膝への負担が増す
  • 病気の回復が遅くなる

また上記以外に家に引きこもりがちになることから、孤独感や抑うつ傾向などメンタル面の影響も現れることが多いようです。

これらの症状から分かる通り、サルコペニアはさらなる重い病気や障害の入り口となります。

例えば、転倒しやすくなることが、骨折・寝たきり・要介護状態につながることが考えられますし、活動量の低下は肥満やそこから派生する生活習慣病を招きます。

それらの重度の状態に陥らないためにも、高齢になるほどサルコペニア対策をしっかりと行う必要があります。

サルコペニアの自分でも分かる診断基準は?

筋力の低下が進んでサルコペニアと診断されるには、基準となるガイドラインが設定されています。

そのチェックポイントは3つあり、

  • 筋肉量が減少しているか
  • 筋力(握力など)が低下しているか
  • 歩行速度などの身体機能の低下があるか
  • という点から判断されます。

具体的な検査方法やガイドラインは国によっても大きく異なりますが、日本人向けの自分でも行える簡易な診断基準をご紹介します。

もし65歳以上の方で次のような診断基準にかなり当てはまるようでしたら、専門医のサポートを受けたほうが良いかもしれません。

・ストップウォッチで計測して歩行速度が1m/秒未満
・握力計で計測して握力が男性で25kg未満、女性で20kg未満
・身長と体重から計算するBMI値が18.5未満または下腿囲の大きさが30cm未満
(国立長寿医療研究センター作成の簡易診断基準より)

なお、歩行速度や握力が基準を下回る場合でも、BMIと下腿囲が基準を上回れば、脆弱高齢者ではあるもののサルコペニアではないと診断されます。

さらに専門的なガイドライン以外の簡易なテストとして、以下の3つの方法で筋肉の低下をある程度判断することもできます。

ふくらはぎチェック

まず両手の親指と人差し指で輪っかを作ります。それを片方の足のふくらはぎの一番太さのある部位にあててみましょう。指で作った輪っかでふくらはぎをどの程度囲めるかが判断基準となります。囲めないほど筋肉がついていると考えられますから良いわけですが、指とふくらはぎの間に隙間ができるような場合には、筋肉がかなり細いということであり、サルコペニアの疑いがあります。

片足立ちチェック

片足で立ったまま靴下を履けるかどうかテストしてみてください。バランスが保てずに足が床についてしまうようなら注意信号です。さらに、腕組みをして椅子に座り、そこから片足で立ちあがってみてください。左右のどちらの足でも立ち上がれるようでなければ要注意です。

横断歩道でチェック

横断歩道を青信号の間に渡り切れるかどうかも一つの目安となります。途中で赤信号に変わってしまう場合は、特に下半身の筋力が低下しており、歩行速度が遅くなっている可能性があります。以前は渡れていたのに渡れなくなっている場合は特に注意が必要です。

これら3つのうち一つでも当てはまるなら、筋力の低下が進んでいると考えられますから早めの対策が必要です。

筋力低下やサルコペニアを予防する方法

既に考えた通り、高齢者を含め筋力低下の主な原因となるのは、「運動量の減少」と「栄養摂取の不良」と言えます。

それでサルコペニアを予防したり改善するためにも、車の両輪である「運動」「栄養」の2つの要素をバランスよく向上させていく必要があります。

レジスタンス運動

基本的にはどんな運動もしないよりはしたほうが良いのですが、中でもサルコペニアの予防に効果が高いとされる運動がレジスタンス運動です。

レジスタンス運動とは、自重(自分の体重)を負荷にして、それに抵抗するように行なう筋力のトレーニング方法です。

特に年齢による筋肉の減少は上半身よりも下半身において目立ちますから、下肢のトレーニングとしてスクワットは最適です。

またウォーキングや水泳など有酸素運動も合わせて行うなら、骨格筋が刺激され、たんぱく質合成が促進されますから筋肉も生成されやすくなります。

運動後のアミノ酸摂取

栄養面ではバランスの良い食事が基本となりますが、特に筋肉の元となるたんぱく質を忘れずに摂ることが大切です。

ご飯やパンなどを食べ過ぎて、たんぱく質豊富な肉や魚があまり食べれなくなるということがないように注意しましょう。他に良質なたんぱく質の補給源としては、卵や牛乳、豆腐などの大豆製品があります。

また筋肉を日々効果的に増やしていくには、運動後30~60分以内のアミノ酸摂取がおすすめです。アミノ酸はタンパク質を構成する成分ですが、アミノ酸そのものを摂取するほうが吸収効率がグッと高くなります。

特に高齢者は加齢で胃腸の消化吸収力そのものが低下していることが多いですから、吸収しやすいアミノ酸の栄養補助食品を活用するのは良い方法です。

サルコペニアとフレイル、要介護との関係は?

フレイルは「虚弱」のことであり、定義としては「加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態」ということになります。

サルコペニアとフレイルは混同しやすい概念ですが、フレイルのほうはサルコペニアよりももっと広い範囲の体調変化を含んでいます。

ですから、フレイルの要因のひとつとしてサルコペニアがあるということです。

フレイルでは筋力や運動機能の低下だけではなく、認知機能の低下など精神面、また社会的要素として孤立・困窮なども判断の基準とされます。

フレイルは健康な状態と要介護状態の中間という位置づけがされており、「要介護予備軍」ということになります。

分かりやすくまとめると、サルコペニアの高齢者が精神的機能まで低下するとフレイルに当てはまり、フレイルが進むと要介護状態になるということです。

サルコペニア肥満の怖さとは?

サルコペニア肥満は、筋肉の減少と体脂肪増加が同時に起きている状態です。サルコペニア肥満になると、どちらかのみの状態よりも死亡リスクが増加するといわれています。

これは糖尿病や高血圧など代謝疾患と運動機能の低下が相乗作用によって起きやすく、悪化するスピードも早くなるためです。

また怖さの理由の別の点として、サルコペニア肥満は気づかれにくいということもあります。体脂肪が増えていっても、筋肉量が少ないためにさほど太ったように見えない場合があるのです。

若いころと体重や見た目があまり変わらなくても、実は筋肉が極端に減少して脂肪に置き換わっていたということも考えられ、油断していると突然に病気や体調不良に悩まされるようになるかもしれません。

このことから単に体重だけで健康状態を判断するのではなく、筋力や運動量もしっかりとチェックしておく必要があるといえます。

サルコペニアの改善に役立つロイシンについて

人は年齢がかさむにつれて筋肉の衰えが気になるものです。

とりわけ高齢者になると噛む力が弱くなり、硬いものや肉など顎の筋肉を使うような食材を敬遠しがちになり、しだいに飲み込む筋力も弱くなることで食が細くなり、低栄養に陥りやすくなります。

低栄養になるとたんぱく質が不足した状態になり、筋肉や筋力の低下を招いて運動機能が落ち、自立した生活困難な状態に陥りやすいと言えます。

このよう高齢期におこる筋力の低下などのことをサルコペニアと呼びます。

現在、サルコペニアの改善にロイシンが注目を浴びています。

ロイシンとは必須アミノ酸の1つでバリン、イソロイシンと合わせて分岐鎖アミノ酸と呼ばれ、筋肉のたんぱく質を合成し、分解を抑制する働きがあります。

特にロイシンには、筋肉を強化する働きがある為、高齢者のリハビリや運動機能トレーニングと合わせて摂ることで改善が期待できるということです。

ロイシンは動物性たんぱく質に多く含まれている為、噛む力や飲み込む力の弱い高齢者はなかなか必要な摂取量を食事から摂ることができません。

そのような高齢者にはサプリメントのような栄養補助食品で補う事が推奨されています。

サルコペニアを防ぐロイシンの摂取方法

先述したようにアミノ酸は筋肉のたんぱく質を合成する為には欠かせません。

特にロイシンを含むアミノ酸は高齢者の筋肉量の維持や筋肉の強化には必要な成分となっていますので、積極的に摂取することが望ましく、食事で摂れない高齢者にはロイシン高配合のゼリーやドリンクタイプの栄養補助食品で摂取することがおすすめです。

筋肉の元になる必須アミノ酸の中でもロイシンが最も重要な働きをしますので、サプリメントや栄養補助食品を活用する為にはロイシンの配合量に注目しましょう。

現在いくつかのメーカーからロイシンを配合するサプリメントや栄養補助食品が販売されていますが、中にはロイシン40%以上の高配合のものも販売されています。

運動と併用することで筋肉の維持や筋力アップに効果が期待されますので、筋肉の衰えが気になる、歩行に不安がある、リハビリをしているという人にはこういった栄養補助食品を活用すると良いでしょう。