給与明細に書かれている「職務手当」とは一体何でしょうか?
「残業代は職務手当に含まれている」と言われた時、それ以上残業代を請求することはできないのでしょうか?
職務手当の仕組みをまとめましたので、ご参考にしてください。
目次
職務手当の意味を知りたい!
職務手当の定義は、「特定の職務に対して必要とされる特殊な技術や技能、資格、複雑性、責任度等に対応して支給される手当」とされています。
この定義からも分かるように、含まれる範囲が広くて、会社によってその金額や対象範囲は様々です。
逆に言えば、給料を支払う側にとっては、都合のよい名目として利用できる面があります。
介護職の給料計算では、夜勤の手当や資格手当を含んだ総称として使われることが多いようです。
職務手当と職能手当の違いは?
職務手当が「職務」、つまり仕事内容を対象とするのに対して、職能手当は「職務遂行能力」つまり「人」やその能力を対象としています。
職能手当(職能給)は、あらかじめ能力に応じた等級が定められており、多くは年齢や勤続年数によって等級が上がっていくような仕組みになっています。
日本では長い間、職能手当が主流でしたが、徐々に成果主義が取り入れられるようになると共に、職務手当に代わるところも増えてきました。
職能手当が長年勤めるほど有利になるのに対して、職務手当は若手でも給与面で優遇されるチャンスがあります。
職務手当と資格手当の違いは?
一般的に職務手当は、資格手当も含んだ大きなくくりの呼び方と言えます。
職務手当の定義では、職務に対して必要な特殊な技術や技能・資格・複雑性・責任度に応じて支給されるとされていますから、「資格」に対しての評価も含まれることになります。
しかし、職務手当の対象とする範囲は広いので、分かりやすいように資格に対する部分を切り離して、「資格手当」と「職務手当」の両方を明細書に載せている場合もあります。
役職手当と職務手当の違い
役職手当は、管理職に対してその地位、職務、責任、権限への対価として支給されます。
職能手当や職務手当と似たところもあり、明確に区別するのは難しく、会社ごとに中身や意味合いが異なりますし、役職手当と職務手当の両方が支給される場合もあります。
業務手当と職務手当の違い
業務手当とは、業務に対して支払われる手当のことで、職務手当とほぼ同じような意味合いと考えてよいでしょう。
会社の就業規則を確認すれば、どのようなことを対象とするか詳細に説明されている場合があります。
職務手当は看護師にもあるの?
看護師の場合は、ヒラの看護師から上に上がり、管理職や役付きになった場合に、職務手当がつく場合が多いようです。
呼び方はいろいろで、役職手当、管理職手当、職責手当、主任手当、師長手当、部長手当などがあります。
いずれも、他の職員より重い責任や役割を担っていることへの対価として支払われます。
病院によって、一定額が定められていたり、基本給に対して何%という定率で決められているところとがあります。
職務手当の中身は就業規則で確認を
職務手当は、含まれる意味合いも幅広く、会社によって中身が大きく異なってきます。
ですから、具体的な中身を把握するには、会社ごとの就業規則で確認する必要があります。
就業規則で確認する点は、
- 職務手当に関する規定があるか?
- 職務手当は何に対して支給されるのか?
- 職務手当には固定残業代も含まれているか?
- 職務手当の支給額はどのように定められているか?
といった点です。
なお、支給額については、具体的に金額を記載することは義務ではありませんから、漠然とした表現で書かれている場合もあります。
また、就業規則は従業員が10人未満の会社では作成が義務づけられていないため、存在しない会社もあります。
職務手当の相場はどうなっているの?
職務手当は、業種や会社によって中身が大きく異なるため、一律に相場を出すのは困難です。
職務手当のうち、資格手当に関しては平均1万円とも言われています。もちろん業種によってばらつきがあります。
一方で、職務手当にみなし残業代まで含まれているなら、残業の見込み時間に応じて5万円や10万円と定められている場合もあります。
職務手当を基本給と分けているのはなぜ?
雇用時の労働条件として、「基本給15万円」と提示されていたのに、給与明細では「基本給13万円+職務手当2万円」と分けて書かれていることがあります。
このように分けられることで、労働者側に不利益があるのでしょうか?
これについては、職務手当の中身を就業規則などによって正確に把握しなくてはなりませんが、例えば、職務手当の中に「みなし残業代」が含まれている場合があります。
この場合は、一定範囲内での残業代は、職務手当の中に含まれていますから、別途残業代が出ることはありません。
最初に提示された労働条件で、基本給に「〇〇円の残業代を含む」と明示されたのでなければ、本来は最初の提示額「15万円」とは別に残業代が支払われなければなりません。
このケースだと、企業側の労働条件の明示義務違反となります。
また、基本給を低くすることで、賞与の計算や退職金の金額を低くおさえようとする会社側の思惑もあるかもしれません。
職務手当の減額はどんな場合に不当か?
まず基本給についてですが、これについては会社と労働者との雇用契約で決められていますから、本人の同意なしに変更することはできません。
一方で、職務手当の性質としては、実態はどうであれ、仕事内容に応じた対価とされますから、人事異動や配置転換によって増減するのは十分にあり得ることです。
逆に、そのような事由がないのに、突然に減額されるということは、不当であるとみなされる可能性は高くなります。
また、人事異動や配置転換などの理由があるとしても、減額された額が適正であるかどうかという点も検討が必要です。
職務手当には残業代を含めてよいのか?
職務手当に残業代を含めること自体は違法ではありません。
ただし、その場合には就業規則や賃金規程、雇用契約書の中で、その詳細を明示しておかなくてはなりません。
たとえば、「職務手当には、月20時間分の時間外手当を含む」などと、記載しておく必要があります。
そのような職務手当に残業代が含まれる旨の記載がない場合には、雇い主側は職務手当に残業代が含まれているとの主張はできず、未払い残業代を支払うべき義務があります。
職務手当のみなし残業代以上は請求できるのか?
あらかじめ賃金や手当ての中で、一定時間分の残業代を含ませておくのが「みなし残業代」又は「固定残業代」ですが、これが職務手当に含まれているからといって、企業は時間無制限に残業させてよいわけではありません。
まず、職務手当に何時間分の残業代が含まれるかを明示しておくべきですし、もし実際の残業時間がみなし残業時間を超えるなら、それについては別途残業代を支払わなくてはなりません。
さらに職務手当が管理職手当に意味合いとして支払われている場合があります。
これがなぜ問題なのかと言いますと、労働基準法の上の管理監督者には、残業代を支払わなくともよいことになっているためです。
実質的に社内で管理監督者としての権限を持っているのなら問題はないのですが、いわゆる名ばかり管理職をつくり、残業代を一切払わないようにしている企業もあります。
そして、その代わりに職務手当を支給している場合があるのです。
しかし、肩書がどうであれ、実際に管理監督の権限が与えられていないのであれば、法律上は残業代を払わなくてはなりません。
このように職務手当がついているとしても、残業代が請求できるも見込みは十分あります。